「まち むら」98号掲載
ル ポ

女性パワーを結集し「仲間づくり・生きがいづくり・地域おこし」
新潟県長岡市・小国山野草会
 山里の美しい山野草を育て、まちおこしに役立てようと、山野草愛好家のグループ・小国山野草会が発足して7年目。地域の名人・匠(たくみ)たちとの共同活動が盛んとなり、地域づくりを盛り上げている。
 新潟県中央部の長岡市街地から車で約40分。日本一の大河・信濃川の支流「渋海川」をさかのぼり、日本海側の河岸段丘沿いに向かうと、地域のシンボル「八石山」を主峰とする山々が連なる。
 渋海川流域の平坦部と穏やかな山間部を抜けると、棚田と隣接した広く整備された水田地帯があり、ここが小国盆地である。豊かな自然と調和し、周囲が山林に囲まれている人口約6700人の農山村。冬期の積雪は3メートルを超えるまれにみる豪雪地。ここでは、融雪期の4月が早春で、まだ雪が家屋の周りなどに残っていても春は一気に訪れる。陽春の輝きが増すごとに山や野の草木が息をふき返らせる。
 人口の減少や高齢者が増加するなか、「小国の町が寂しくならないように、地域の宝である山野草を育て、仲間づくり、生きがいづくり、地域づくりをしよう」と立ち上がったのが、女性を中心とした山野草の愛好家のグループだ。


特色ある山野草展が人気

 グループの名は「小国山野草会」。平成13年8月に、女性16人、男性14人計30人の仲間たちでスタートした。代表の相波葉子さんは「山野草の可憐な花は、心の優しさと暖かさを伝えてくれるので地域のみんなに広めていきたい」と、山里に自生する植物の持つ不思議な生命力の強さに感激し、会員たちに活動を呼びかけた。会員には、山野草の女王・雪割草を自家のハウス内で育てる副会長の藤田賢治さん、木と竹を使った工芸品づくりをしている宮川敏夫さん、伝統の「小国和紙」に繊細な絵を描く藤野英世さん、同じく画家で小国文化協会長の安沢総夫さん、創作わら加工細工が得意の山岸脩さん、山野草や木の実を存分に使ったりリース(飾り)に夢を求める小川町子さんなど多才な地域芸術家の顔ぶれが揃った。
 「山野草を私の生きがいにしている」という入会5年目の小林修子さんは、「心から良かったなあと思うことは、1年間を通じて季節の山野草に満足のいくような花を咲かせられた時です」と山野草に寄せる特別な思いを語る。
 山野草会が行なう催し物には、会員以外の人たちの作品を展示し、地元の小・中学生なども地域貢献活動として会と一緒に活動に協力するようになった。


定着した春・夏・秋の山野草展

 小国町は平成17年4月に長岡市と広域合併。同年6月には、自然と親しむ場・「長岡市おぐに森林公園」内に交流体験館が完成した。この施設を拠点に、地域交流や各種のイベントが盛んとなり山野草会の活動も地域の人たちと一緒に交流し、活動の幅を広げている。
 その一つが毎年開催している講師を招いての「学びの専門講座」。山野草の寄せ植えや鉢の植え替え、土の混ぜ方などを勉強したり、県内各地の山野草の里などを見て回って、自生する多種多様な野草をいかに美しく飾って花を長く咲かせるかを工夫することを身に付けた。
 ようやく雪が消え始める4月には、小国森林公園での「雪割草と春の山野草展」を開催。約1200人の地域住民や愛好者が訪れた。とくに、雪割草の展示・販売は人気を呼び、自家で育てる鉢数は年々増加している。
 交流体験館を会場とした行事「春の山野草・おぐにの春のもてなし」には、地域に伝わる田舎料理「ごっつぉ(ご馳走)」が女性会員や年配の女性たちの手で作られ、ふんだんに振舞われた。お年寄りから子どもたちまで地域の内外から多くの人が訪れた。地元で採れた山菜や食材の料理がずらりと並ぶ。ヤマタケノコにシイタケ、レンコン、ギンナンの実、手製のコンニャク、打ち大豆を使って煮物やかまぼこ入りの「おからのふくめ煮」「雪下カンラン漬け」「ヤーコンの黄金漬け」など昔から小国地域に伝わる料理が復活した。
 5月は、初夏の若葉を楽しむ植物観察会を実施して自然の山野草から元気をもらう。また、地元の郵便局で毎年初夏のミニ山野草展を開催している。


1万人が訪れた「小国まるごと発信」

 11月、長岡市大手通りの市民センターで「小国まるごと発信」と題し、秋の山野草展を初めて町外で開いた。小国地域を表す特色ある作品と情報などを広く発信することができた。会員が育てた雪割草のほかハゼやリンドウの盆栽、アボガドの木、ヤブコウジやヤマシダやキリンソウなどの寄せ植えのほかに、地元の森林組合の山野草や「おぐにリース(飾り)の会」のドライフラワー、小国の本と竹を使った花器、手彫りのガラスエ芸品がずらりと並んだ。特別展示された古民家のミニチュアは「かやぶき屋根」の家が地域からどんどん姿を消しているので、むかし懐かしい思い出になるよう忠実に家屋を再現した。また、10人の会員が交流体験館で作製した独自の「おぐに折り紙人形」を出品。長岡市在住の南雲タカさんが指導。和紙や千代紙の美しい色を活かしながら筆文字でアクセントをつける手法は、女性ならではの作品に仕上げられ、展示会場を明るく彩り、多くの市民を楽しませた。地元の小学5年生が授業で牛乳パックから和紙を漉いて作製した「小国和紙のあんどん」も人気。7日間で約1万人が訪れた。


「元気な地域づくり」の実現に向けて

 発足して7年、当初の「山野草を育てて仲間づくりと生きがいづくり」という目的はようやく実現し活動は広く定着しつつある。これからは、里山にある多くの地域資源を、地域のグループ、森林組合、商工会、農協、生産組合などと連携し、「小国の宝」として守り育てながら、地域づくり活動の輪をどれだけ大きくしていくかが課題である。
 現在、「小国の匠(たくみ)」と呼ばれる物作りの名人技をもっている人たちは28人。相波さんも今年、山野草の寄せ植えや工芸品作製、自然観察などで県知事から「なりわいの匠(たくみ)」の認定を受け、小国地域の自然ガイドを引き受けている。相波さんは「小国には匠の人たちが揃っている。自分の作品づくりや物づくりと合わせて都市との交流で、山野草を育てる技をみなさんに指導し、小国地域の観光ガイドにも役立てられればうれしい」と話す。
 長岡市小国支所の広田忠俊地域振興課長は「地域のグリーン・ツーリズム推進協議会を中心に地域資源を活かした『もてなし交流』を進めているが、山野草会もこの一翼を担いながら、地域づくりのために頑張ってほしい」と語る。
 今後、都市の人たちとの交流を一層活発に行ない、元気な地域・やすらぎの里を実現してほしいものだ。